令和2年11月29日(日)  目次へ  前回に戻る

 みなさん、そろそろちゃようなら。

おお枯れ葉よ。木の葉も散り、冬になってきました。

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唐の大和年間(827〜35)、湖北・江夏(現代では武漢市に属しています)に赴任した某氏の官舎で

有怪異。

怪異有り。

おそろしいことがあったのでございます。

毎夕見一巨人。

毎夕、一巨人を見る。

毎晩、巨大な人間が現れるのだ。

東京ドームではないのに、です。

この巨人、

身尽黒、甚光、見之即悸而病死。

身ことごとく黒く、甚だ光り、これを見れば即ち悸して病死す。

体中ぴかぴかと黒光りしており、これを見た者は激しい動悸に襲われて病み死んでしまうのだ。

恐ろしいですね。

あるとき、一人の道士がこの地を訪れた。

この道士、なんとなく自信は無さそうなのですが、

善視鬼。

善く鬼を視る。

霊的なものを現実に見ることができる。

という。そこで某氏は彼に巨人のことを相談した。

「は、はあ。いいですよ。退治してみま・・・できるかなあ・・・いや、できる、と思いますが・・・」

その夜、道士は

坐於堂西軒下、巨人忽至。出一符飛之、中其臂。

堂西の軒下に坐すに、巨人忽ちに至る。一符を出してこれを飛ばすに、その臂に中れり。

正殿の西側の軒下の廊に座っていたところ、夜半、突然巨人が現れ、

おおーん

闇の底から響くようなうなり声をあげた。

「なるほど、精霊・・・ただし、それにこの地で役人どもを怨み滅んだ者たちの遺志が乗り移ったわけか」

道士は懐から一枚のお札を出して、

「いやー!」

とこれを投げつけた。お札は過たず、巨人の腕に当たった。

ばりばり。

劈然有声。遂堕於地。

劈然として声有り。遂に地に堕つ。

何かが裂ける音がして、巨人の腕が地面に落ちた。

うおーん

巨人即去。

巨人即ち去れり。

巨人は、悲しげな声を残して逃げ出して行った。

灯りをとって

視其堕臂、乃一枯木枝。

その堕とせる臂を視るに、すなわち一枯木の枝なり。

巨人が落としていった腕を見たところ、一本の枯木の枝であった。

「なるほどなあ」

至明日、有家童曰、堂之東北隅有枯樹焉。先生符今在其上。

明日に至りて、家童の曰う有り。「堂の東北隅に枯樹有り。先生の符、今その上に在り」と。

翌朝、住み込みで雇われている童子が来て言うに、

「正殿の東北側に枯れ木が一本ありまして、先生のお札がその枝に載っていまちたよ」

「でちゅー」

即往視之、見其樹有枝稍折者。果巨人所堕臂也。

即ち往きてこれを視るに、その樹の枝に稍や折れるもの有るを見る。果たして巨人の堕とすところの臂なり。

そこで行ってみたところ、その木の枝に一本折れたところがあった。昨夜の巨人が落として行った腕の枝とぴったり合うのであった。

「この木があの巨人だったのだな。いや、よくやってくれましたぞ」

「もう悪さも何もしませんよ。それよりあなたがたのご政道を改めるべき・・・」

と道士は言ったが、

某氏やその家の者たちは、

「恐ろしい魔物じゃ、根絶やしにせんとな」「あい」「でちゅー」

と、

即伐而焚之。

即ち伐りてこれを焚けり。

すぐにその枯木を切り倒して、燃やしてしまった。

その炎の中から、

うおーん

敗者の滅びの声が、聞こえる者の耳には、響いたことであろう。

ところで、この道士は、名高い許元長であったということである。

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「宣室志」巻五より。久しぶりでこのタイプのお話をご紹介しました。

初冬の夜半、何やら闇の底から聞こえるうめき声に、もしやこれは滅びゆく者の声かと窓より見上げたが、梢を吹く木枯らしの音であった。どこにも巨人の姿はなく(四連敗で消えて行ったのだ)、代わりに空には月の色がすさまじい。

袁宏道がいう(「夜臥青玉峡看月」(夜、青玉峡に臥して月を看る))、

五更涼夢泊孤雲。 五更の涼夢は孤雲に泊し、

以手捫天如蒼玉。 手を以て天を捫(つか)めば蒼玉の如かりき。

 夜明け前の寒々とした夢は、あの一切れの雲のあたりにあったのだろう。

 (夢の中で)手を伸ばして天をつかんでみたところ、まるで青い玉のようにひんやりとしていた。

明日は満月で、月食もあるんだそうですよ。

 

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